2020/04/10
胆嚢という臓器は肝臓で生成された胆汁を食事に応じて十二指腸内に排出する袋状の臓器である。
動物種によっては胆嚢を持たない哺乳類もおり
学生時代の試験前は胆嚢を持たない動物種をこのようにして覚えた。
「バカラットマストミス」
「バ(馬)カ(鹿)ラット、マストミス(ネズミの一種)」
胆嚢を持たない哺乳類がいる一方で、胆嚢を持つがゆえに病気を発症してしまう動物種もいる。動物病院に来院することの多いわんちゃんだ。
胆嚢の病気は獣医師を悩ませる。
超音波検査で胆嚢に異常所見が認めらるものとして
胆泥、胆嚢炎、胆石、胆嚢粘液嚢腫が挙げられる。
後者3者は病的な所見として異論はないと思われるが、最初の胆泥が厄介だ。そして、一番よく認められるのも胆泥だ。
先日、国内の専門家たちのセミナーに参加してきたが、
胆泥から胆嚢炎、胆石、胆嚢粘液嚢腫に移行するのか。もしくは別の病態なのか。
時系列での病態の把握が完全になされているとは言いがたく、現時点では統一された治療基準がなく、治療に当たる獣医師の判断によっている。
病気が進行した場合、予防的に外科手術を行うのか、内科でコントロールするのか飼い主様との相談が必要だ。
胆嚢破裂など重篤な場合には緊急的な対応が必要で救命率も下がるため、その点も含めて飼い主様と相談する。
今回の症例紹介はそんな患者さんの紹介
(以降、手術の写真などが出てきます)
健康診断で肝酵素上昇が認められ、超音波検査で粘液貯留が認めれた。
内科療法で経過観察を行っていたが、画像の変化はなく、年齢も若かったため予防的に胆嚢摘出術を行うこととした。
画像は胆嚢の超音波検査
キウイフルーツ様といわれる典型的な画像が認められた。
摘出した胆嚢
粘液が内腔に付着していた。
胆嚢粘液嚢腫の病態には肝臓の代謝系が関係しているとされ、同時に肝生検を行い肝臓の病理組織学的評価を行うことも重要だ。
今回は同時に肝生検を3箇所から実施した。
胆嚢摘出は周術期死亡率が30パーセントほどあると報告されていた。
しかし、最近は手術機器の発達、早期手術実施、術後管理などにより、かなり合併症、死亡率は下がってきている印象を受ける。
今回の患者さんも大きな合併症もなく、術後3日で退院してくれた。
これから情報が蓄積され胆嚢疾患に対するガイドラインができてくるだろう。
それまでは、現状でわかっていること、ここから先のこと、当院でできることなどをお話しし、飼い主様と相談し治療を行っていきたい。